風景と速度

@takusan_neyoの日記

センター試験のおもいで

「今年はきっとマダガスカルが出題されますよ」とM先生は言った。

マダガスカル島は島の東側と西側で気候区分が大きく異なるし、島中央の高山地帯もまた別の気候になる。熱帯・乾燥帯・温帯が一つの島につめられた、不思議な気候の島だ。わたしは、マダガスカルの首都が「アンタナナリボ」というなんだか口ずさみたくなるような名前だったから、その先生がマダガスカルが出る、と言ったことがなんとなく頭の中に残っていたのだった。

結局、その年のセンター試験ではマダガスカルの気候に関する問題が出題され、わたしは今までの模試でも過去問演習でもとったことのない最高得点を叩き出した。わたしにとって地理の授業を受け、地理を勉強することは、行ったことも見たこともない土地のこと、その土地に住む人々や文化のことを想像し、心を寄せることだった。バオバブの樹を見たことがなくても、バオバブの樹のことを知識として知っている。心の中には草原が広がっている。

わたしはセンター試験だか2次試験だかの直前に、お世話になっていた先生たちに、ノートやテキストにメッセージを書いてもらった。化学の先生からは「radicalな人生を歩め、全てを手に入れろ!」、英語の先生からは「No Attack, No Chance! Are you ready?」というような、試験前の気持ちを奮い立たせるようなメッセージをもらったと思う。(いま思えば、給料に全く関係ないのにそのようなサインをくれるなんて、優しかったな。)M先生はそれとはうって変わって、B5のテキストの1ページぶん、長文の言葉を書いてくれた。キャッチーではないし、当たり前のことしか書かれていなかったけど、それがすごく印象に残っている。

センター試験のためだけに勉強した地理。わたしの場合、地理の知識は入学後も卒業後も使う機会に恵まれなかったため、多くのことが抜け落ちてしまっているけれど、ひょうきんだけどどこか芯のあるM先生のことはぼんやりと覚えている。

記憶はいつもぼんやりとしていて、それを辿ることはろうそくに灯した火を遠くから眺めるような静謐さを持った行為だ。わたしにとって文章を書く第一の意味かもしれない。

ちなみにわたしのセンター試験の地理の点数は95点だったのだけど、あんな点数二度ととれないんじゃないかとおもう。きっとあの頃はどうかしていた。ちなみに国語は130点くらいだったので地理のアドバンテージは国語で相殺となった。